1)帰国隊員が日本で経験する再適応困難の主要因の解明、2)途上国での滞在、仕事が彼らの人格形成に与えた影響を調査、3)対象者の帰国適応尺度形成を試みる、という3目的を持ち研究を行なった。データ収集の技法は、面接、質問紙法(層別無作為抽出)で、対象者は以下の4グループであった。1)元隊員25人(年齢範囲20-60代)、および2)進路相談カウンセラー9人に面接、3)帰国後3年以内の元隊員600人、および4)帰国後5-10年の元隊員の95人に質問紙送付。それぞれ240人(回答率40%)、29人(回答率30%)から回答を得た。 殆どの対象者が帰国後肯定、否定両面の心身、対人関係等の課題を経験していたが、肯定的感情は1、2ヶ月で終わり、否定的経験は長く(課題により6ヶ月-1年以上)続いた。彼らの困難は、身体(下痢、発熱等)、心理(不安感、違和感、孤独等)、対人関係面(家族、旧友、上司・同僚等)に係わっていた。さらに、多くが消費志向、効率・能率追求の日本杜会に対しとまどい、批判的であった。こうした母国での困難は、米国の帰国者や平和部隊員に関する先行研究を支持する知見であるが、家族の帰国者への仕事や結婚に対する「圧力」は日本的現象であった。また、職探しも現今の不況に影響され大きな課題であった。困難の主要因は、帰国者の価値観の変化、日本社会の異文化を持つ者に対する閉鎖性、協力隊への無理解、日本的親子関係、不況等である。心理的な違和感は急激な空間、文化の移動に伴うものと本研究は分析した。対象者の多くに「日本的オリエンタリズム」(欧米への憧憬と途上国蔑視)がなく、中には帰国後20年、30年以上を経ても、物質的豊かさを追求せず、途上国、社会的弱者に思いを寄せ、直接、間接に今も支援を続けている人がいた。尺度の信頼性はAlpha=.790であったが、改善のために役立つ知見も得た。 分析の理論的枠組みはMead(1934、1959)の象徴的相互作用論、Schuetz(1945)の"The Home-comer"等である。
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