本研究は、高齢者介護において社会資源を導入する際の、利用者と家族による情報収集の内容と編集過程の検討を通して、生活者の側から介護保険制度を吟味することにある。栃木県宇都宮市近郊の伝統的城下町をフィールドとした聞き取り調査を行っている。本年度は、昨年度の研究から浮上した二つの検討点、すなわち、1)利用者・家族介護者の情報収集・編集における地域の保健婦やケアマネージャーの役割、2)同地域内での背景要因の異なるケース(例えば農村部か否か)の実態、に焦点をあて聞き取り調査を行い、ナラティブ分析を試みた。 1)に関しては、アウトリーチ的に家庭に入り込めるメリットと、その家庭から「線を引かれること」への焦燥、医療的背景をもつケアマネージャーと福祉的背景をもつケアマネージャーの違いといったことが語られた。そして、それらを背景とした多様性とともに、各家庭での情報収集の鍵となっていると考察された。他方、家庭から保健婦やケアマネージャーには語れないこと、あるいは逆に家庭に向けて、有用であってもアドバイスできないことが見出され、これらのズレにこそ、情報の「編集過程」があるといえる。 2)に関しては、前年度の町部で収集された語りと、類似した語りが得られた。特にマスターナラティブとの関係では、今のところ明確な差異を地理的要因に還元していくのは難しい。しかし、現実の介護資源の利用に直結する交通機関の利便性や近隣の状況(助けてくれる別居の家族e.g.結婚して家を出た娘が近くにいるかどうか)によって、語りの「強度」が異なっている可能性があり「私が介護できなくなったら、二人でいつでも入院できるよう荷物はまとめてある」という状況の中で、取り入れる情報の重みが変わってきている可能性が示唆された。 これらの成果の一部は、日本心理学会(2002)などで発表された。
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