本年度の研究は引き続き京大病院もの忘れ外来でのMCI及び早期痴呆の患者とその家族への支援に関して実行した。研究は大きく次の4つに分かれる。1)MCIおよび初期症状の研究、2)痴呆の病名と予後の告知の研究、3)外来に通う患者の家族が困っていること、それに対する援助の研究、4)高齢の患者の家族関係を規定する要因、および高齢者の社会経済的地位についての研究、であった。 1)について、早期痴呆とMCIの定義およびその範囲、初期症状、予後を知ることが、高齢者とその家族への支援の内容を考えるに当たって非常に大切である。共同研究者武地がこの研究に取り組んだ。その知見は、もの忘れ外来スタッフ(臨床心理士、ソーシャルワーカー、看護師、事務員)全員に共有され、患者や家族との面接と、2)の痴呆の病名とその予後の告知の研究にも資するものであった。患者や家族は、病名と予後の告知を望んでいるか、病気についてどのような知識を持っているか、告知は混乱を招かないか、など患者と家族の病気への知識と受容に関して考慮する事柄が多い。これまでの研究の成果を知り、一般高齢者を対象にアンケート調査を行った。結果として、痴呆の病名と予後の告知については「知る権利」に答えるだけでは十分ではなく、病気の知識のあいまいさや誤謬に代表される、一般人の知識の現状から、告知がもつインパクトを医療スタッフが理解し、正確で前向きな態度を維持するように援助する必要性がわかった。3)では、外来患者とその家族にアンケートを試みた。結果は、全体の7割は、外来の医師とスタッフに相談できてはいるものの9割は日常生活で困っている事柄を抱えていた。4)については、家族による介護は、4つのキーワード、多様性、資源性、変遷性、互いの恣意性で言い表されることを確認した。また、高齢者の社会経済的地位の変化にエイジズムや偏見が果たした役割が解明された。
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