ベルギー・フランス語圏の文学・文化をめぐる基本的研究文献を探索し、重要な書籍の多くを入手し読むことで、通史的な理解を深めることができた。そこで得た知見を背景として、一方ではベルギー・フランス語圏で現在活躍する代表的な作家、詩人、批評家たち(ジャン=フィリップ・トゥーサン、ジャン=リュック・ウテルス、アンヌ・ペンデルス、ジャック・ド・デケール)と直接にコンタクトを取り、独自の文学的達成を示すその活動を間近に取材するとともに、他方では今日の演劇状況をめぐって、「二十世紀劇団」や「グルポフ劇団」といったもっとも注目される劇団のメンバーに話を聞き、過去の歴史の反省に基づく意欲的創作のあり方に触れることができた。 駒場キャンパスにおける、ジャン=フィリップ・トゥーサンを囲むベルギー文化シンポジウムの開催、アンヌ・ペンデルス講演会の開催をはじめ、これまで日本においてかえりみられることの少なかったベルギー・フランス語圏の文学者たちの仕事を紹介する機会を作り得たこと、日仏バイリンガル雑誌LesVoix(レ・ヴォア)におけるベルギー文化特集号の編集に加わることができたこと、そしてまたベルギーで刊行されたフランソワ・ダヌマルクの意欲的な翻訳詩集のプロジェクト-33カ国の研究者、翻訳家たちによるダンヌマルク作品の翻訳の試みを一冊に結集する-に参加することができたこと等、萌芽研究として充分に満足のいく成果をあげられたものと自負している。
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