昨年度の研究成果を踏まえながら、全期間にわたって若者語研究の最先端の論考を読解・分析する作業をおしすすめた。平成14年7月にスウェーデンにて開催された言語学史学会では、若者言葉における造語論の特徴を日独両言語を素材に概観し、日用語と若者語の相違点をさぐるとともに、造語論の理論的基盤を批判的に見直す講演を行った。それは同時に、言語学の修史学を若者語研究の視点からとらえなおす試みでもあった。また、8月の北京でのアジア・ゲルマニスト国際会議において、「グローバル化する時代における若者語研究の可能性と限界」と題して講演を行い、ショートメール・コミュニケーションの日独対照を論じる機会を得、社会言語学の新しい研究領域にアジアのゲルマニスト(言語学者)の目を向ける契機とした。こうした国際会議での発表・討議を経て、若者語研究の意義を世に知らしめるとともに、今後の研究上の課題を発見することができた。さらに、大学院生の協力を得て、若者言葉の日独対照基礎語彙表・表現集の日本語部分を約30語の平明なコーパスの形にまとめた。このコーパスは、今後の改訂が待たれる基礎資料である。また、海外共同研究者のAmmon教授、Schlobinski教授とは面談やメールによる討議を重ね、とりわけSchlobinski教授とは平成15年2月に、コミュニケーション・ツールとしての「ケータイ」が若者言葉に与える影響の調査・分析に焦点を当て、マルチメディア時代の言語研究のあるべき姿を追求していくドイツ語論文執筆のための集中的討議を行った。その過程で、対照言語学や言語類型論の諸問題と今日的課題も浮彫りになった。若者語研究を言語研究(変種言語学)のなかに定位する試みも含めたいくつかの論考を執筆したことも本年度の大きな成果である。以上を基礎として、今後の研究進展につなげたい。
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