1.平成14年度における研究の重点課題: ローマ法源に見える船主・旅館主・厩主のレセプツム責任を、ローマ法源には直接言及のない陸上運送人(馬車運送人・郵便)に拡張ないし類推適用するべきか否か。これは、17世紀後半から18世紀にかけ、ヨーロッパでもっとも論争された法律問題の一であった。 昨年度までの研究をふまえ、本年度にあっては、裁判実務に各学説が与えた影響を本テーに即し究明しようとした。素材としたのは、ドイツにおける諸大学または所属教授が、裁判所または訴訟当事者から、書類送付のうえ委託され作成したコーンシリアである。 本年度は、まず、テュービンゲン大学につき、刊本のみならず、手書きの原史料を調査し、ついで同時代におけるその他の諸大学につき刊本を調査し、それらを比較対照した。 2.平成14年度の研究成果: (1)テュービンゲン大学にあっては、18世紀初頭までは、かの拡張適用を否定するコーンシリアがつづいた。(2)ヴィッテンベルクやフランクフルト(オーダー)大学では、かの拡張適用を、公的な(ラントの)馬車運送人ないし郵便に限定して認めるコーンシリアがつづいた。これは、テュービンゲンでも1740年に採用された。(3)かの拡張適用を陸上運送人一般に認めるコーンシリアは、18世紀になるとまったく見られなくなった。 来年度は、テュービンゲン以外の各大学について手書きの原史料を調査し、分布状況把握の精度を高める。最後に、析出した学説分布状況の意味を、当時に法源論(変則法か正規の法か)・法律解釈論(拡張か類推か)研究および領邦立法の研究によって究明する。 なお、本年度の研究成果の一部を、『福岡大学・法学論叢』に別添のとおり公表した。
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