1.研究の課題:前年度までの研究を承け、本年度にあっては、以下の諸点を重点課題とした。陸上運送人のレセプツム責任に関する17世紀後半-18世紀前半における学説分布をコーンシリア(各大学法学部が作成した判決案)をてがかりに、よりいっそう精緻に把握する。学説分布の背景にある、法源論および法律解釈論をさぐる。これにより、近世ドイツにおける実務と理論とのかかわりあいの実相を具体的に解明する。 2.研究の方法:ドイツのいくつかの大学におもむき、コーンシリア原本を調査した。帰国後、それを解読し、邦訳し、引用ローマ法文・引用文献・歴史的用語などについて詳細な注をつけた。ついで、法源論および法律解釈論として、グローティウス前後におけるドイツの文献をドイツおよび日本で渉猟した。最後に、以上の研究実績をまとめた。 3.研究から判明した点:ローマ法源では船主・旅館主・厩主にのみ適用された無過失責任たるレセプツム責任を陸上運送人(馬車運送人・郵便)にも適用できるか。コーンシリアに見える裁判実務において、テュービンゲン大学はこれを否定し、ハレ大学はこれを肯定した。その背景には、レセプツム責任に関するローマ法源を、「憎悪法」と解し「憎悪は拡張されず」という、グローティウスやプーフェンドルフもまた唱道した準則を信奉するテュービンゲン大学と、トマージウスに拠ってこの準則を否定するハレ大学とのあいだでの、法源論および法律解釈論上の対立があった。 4.研究実績の公表:以上の研究実績につき、論説「陸上運送人のレセプツム責任-適用否定論の系譜-」および資料「テュービンゲン大学コーンシリウム一件-1688年コーンシリウム原文・邦訳・注釈」を、『福岡大学法学論叢』第49巻第1号(平成16年6月刊行予定)に投稿した。今後とも研究を継続し、論説および資料を公表したい。
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