本年度はとくに「危険」概念を中心に分析を進めたが、--事前に予想されたとおり--同概念の意味内容は同一の理論的場面において用いられる場合であっても、論者によって区々かつ曖昧であって、各理論場面における同概念の意味内容の関係を確定、検討することは、相当に困難であった。とくに「行為の危険」というときの「危険」概念は、厳密な分析なく、ある程度感覚的に用いられているようにすら感じられた。これに対して、結果無価値論の立場から用いられる「結果としての危険」概念は、--具体的な各論者の主張内容からはひとまず離れて--可能な複数の意味内容を抽象的に想定することが可能であるので、そのような想定から出発して、危険犯、未遂犯(実行の着手、不能犯の場面において)の各論点でそれぞれの意味内容を仮定した場合の斉合性・無矛盾性をある程度検討することができた。 来年度は、「行為の危険」概念についても、可能な理論的内容について思い切った想定を行い、これを前提として斉合性の検討を行うこととしたい。要するに、あまりに具体的な各論者の主張に依拠するよりも、まずは理念型に基づいた検討を行うことが先決であると考えられるのである。「違法」概念についても、同様の立場から検討したい。 Prolog言語の利用については、同言語の習得が十分できなかったため、必ずしも十分な成果を挙げることはできなかった。この点は、来年度に改めて研究を行うこととしたい。
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