1.本年度は、まず1990年代の経済危機についていかなる政治的論議が行われてきたかを同定する作業にまず重点が置かれた。そのために、既に発表されている研究成果のレビューを行うとともに、新聞記事データの分析、加工の作業を行った。ここで、注目しているのは、バブル崩壊後の経済低迷への対応策として主張された構造改革と財政刺激策が、どのように政治の場で支持を集め、あるいは失ったのか、それはなぜかを問うことである。この作業は、現段階でまだ継続中であり、来年度の継続的な研究課題となる。 2.上記の作業と平行しつつ、キャサリーン・セレン教授と、メールによる緊密な意見交換を行った上で、12月に両者がとりあえずの研究上得た知見を持ち寄って、90年代日本とドイツの経済危機の政治化のされ方について意見交換を行った。 3.12月の会合をふまえて、とりあえず、90年代日本において大きな問題となってきた、雇用問題に焦点を絞り、この問題がより広い経済問題とどのように関連づけられ、争点化したかを経営者に注目して分析した。そこでは、雇用問題に対して、経営者がいかにその問題を捉えて対処しようとしたかを「集合行為問題」として捉えて政治学的に検討している。具体的な知見は、経営者が自らの企業の競争力を高めるべく「能力主義的管理」を追求する結果、従来の賃金交渉メカニズムであった春闘が、その調整メカニズムを失ってきたこと、しかし、能力主義的管理が必ずしも、アングロサクソン的な労働移動性の高い市場を生みだすのではなく、むしろ安定的雇用を維持するメカニズムも備えていること、しかし、そのようなメカニズムが長期的には経営者間での賃金問題をめぐる調整に悪影響を及ぼす可能性があるということである。このような観察は、ドイツにおいてもなされた。 4.このような知見をふまえて、セレン教授との共著ペーパーを、本年3月14日から16日にシカゴで開催されるヨーロッパ研究学会にて報告する。
|