1.本年度も、1990年代から現在までの経済危機が新聞においてどのように報道されてきたかを、内容分析の手法に基づいて分析した。そこでは、当初危機が循環的な問題として理解されていたのが、不良債権問題、更に日本経済の構造問題として争点化されてきたことが明らかになった。この変化は、「危機」への対応が、当初の対処療法的なものから、不良債権処理促進、金融危機対応から、構造改革へと性格を変えてきた原因であることが示された。 2.この経済危機が、労使関係制度に関する分野でどのように理解され、改革のディスコースを生み出してきたかを、事例研究と聞き取り調査を用いて分析した。そこでは、80年代に日本の経済繁栄を支えたとされた日本的経営に対する評価が逆転し、それの根本的変革が唱道されるようになったこと。しかし、日本的経営を支えた3本柱とされる「年功賃金」、「終身雇用」、「協調的労使関係」について、個別に見ていくと、それらがどの程度実際に変化してきたかについては、大きな差異があることが示された。 3.労使関係の変化について、キャサリン・セレン教授と日独比較分析を、メールなどを通しての共同作業を行った上で、12月にベルリンにて会合を持ち、暫定的なペーパーにまとめた。そこでは、両国において、従来型の労使関係制度を維持しようとするアクターが、パフォーマンスの高いセクター・「勝ち組」企業に存在することが、そうでないセクター・「負け組」企業における変化を加速しているという仮説的結論を呈示した。 4.このような分析に基づく上記ペーパーを現在ワーキングペーパーとして、専門の近い研究者に回覧中であり、コメントを踏まえて最終年度の成果へつなげる予定である。
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