無限コクセター配置とは、古典的なコクセター群の鏡映の鏡映面全体からなる古典的な有限コクセター配置を整数分だけ平行移動してできるような無限配置である。この無限コクセター配置に関しては、そこにフィルトレーションを導入して考えることが大切である。すなわち、絶対値がn以下までの平行移動全体をn番目のフィルトレーションとするのである。無限コクセター配置全体は無限集合であるが、ひとつひとつのフィルトレーションは有限配置であることは当然であるが重要な事実である。一般に、有限配置に対して、そこに接するようなベクトル場全体の作る多項式環上の加群が考えられる。無限コクセター配置についても、そのひとつひとつのフィルトレーションに対して、そこに接するようなベクトル場全体の作る多項式環上の加群を考えることができる。それは、すべての(接するとは限らない)ベクトル場全体の作る多項式環上の加群の減少フィルトレーションを与えている。2002年にInventiones mathematicaeに出版された論文"Multiderivations of Coxeter arrangements."では、その各加群の主要部(最高次数の同次部分)が多項式環上自由加群になることを示した。しかも、その基底をも明示的に求めた。この基底の次数(すなわちexponents)については、予想があったが、この論文の登場まで未証明であったが、この論文で分類を用いずに(いわゆるcase-freeに)証明された。また、現在投稿中の論文では、これらの自由加群について、微分幾何的な解釈を与えた。すなわち、コクセター群の軌道空間上でdiscriminantに接するベクトル場の加群上で定義されたフィルトレーション(齋藤恭司により定義され、ホッジフィルトレーションと呼ばれる)と本質的に一致することを示した。ホッジフィルトレーションは、コクセター群の軌道空間の重要な構造であるフロベニウス構造と等価な構造であって、無限コクセター配置のフィルトレーションからえられる接触ベクトル場の多項式上の加群のフィルトレーションとこのように関連がつくことは興味深い事実である、と思われる。また、他の投稿論文では、2002年に京大数理研の吉永正彦の構成した基底と、私が上記論文で構成した基底との間の関係を明示的に定めた。
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