研究概要 |
本年度は主に離散準凸関数の理論的な側面に重点を置いて研究を進めた.離散準凸関数の概念は、離散凸関数の定義における不等式条件を、その条件に整合する正負の符号条件におきかえることによって得られる。これは、いわば、定量的な凸性から定性的な凸性への移行である。M凸関数は、任意の2点における関数値の和が、その2点を座標軸に沿って近づけたときに減少するというタイプの交換公理によって定義される。これを、関数値の離散勾配が同時に正になることはないという形に定性化することによって準M凸関数の概念が定義される。他方、L凸関数の定義に用いられる劣モジュラ性は、各点における非負象限方向への離散勾配が単調に減少するという条件と等価である。これを、ある点における非負象限方向への離散勾配が負であれば、その点より大きい点における離散勾配も負であるという形に定性化することによって準L凸関数の概念が定義される。具体的には以下のとおりである. (1)離散凸関数,特にL凸関数とM凸関数に関する局所最適性による大域的最適性の特徴づけが離散準凸関数に対しても拡張可能であるかどうかを調べ,この結果を下記の論文にまとめた: K.Murota, A.Shioura : Quasi M-convex and L-convex Functions : Quasiconvexity in Discrete Optimization (2)離散凸関数の定義域を飛び飛びの点に制限した関数(スケーリングと呼ばれる)の最小点が元の関数の最小点に(何らかの意味で)近くにあるという類の定理(近接定理)が離散準凸関数に対しても拡張可能であるかを調べた.この結果を下記の論文にまとめた: K.Murota, A.Tamura : Proximity Theorems of Discrete Convex Functions (3)上記の(1),(2)の結果をふまえて離散準凸関数の最小化に対する効率的なアルゴリズムを構築した. A.Shioura : Fast Scaling Algorithms for M-convex Function Minimization with Application to the Resource Allocation Problem (4)経済学における離散準凸関数の意義について,その数学的な性質の経済学的解釈を検討した.特に,不可分な財を含む経済均衡の存在性との関係について重点的に調査を行い,経済学の文献において知られていた粗代替性条件との等価性などを示し、その結果を下記の論文にまとめた: K.Murota, A.Tamura : New Characterizations of M-convex Functions and Their Applications to Economic Equilibrium Models
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