昨年度に引き続き、複素力学系に適合した複素測度の概念を数学的に構成する手法について研究をすすめた。ジュリア集合において特異性をもつ複素関数を係数とする複素微分形式として捉え、正則関数の芽のなす層を法として得られる超関数を抽出した。こうした超関数の空問には複素力学系が自然に作用する。 自然な作用として、リュエルの転送作用素を超関数の空間上で定義した。力学系の微分の冪乗を重みとして複素線積分で表示される積分作用素の形で定義でき、複素力学系が双曲型の場合にはジュリア集合上の有界な局所正則関数のなすバナッハ空間からそれ自身への完全連続作用素となり、フレッドホルム理論が適用可能となる。この時フレッドホルム行列式は一般に整関数となることが知られている。複素リュエル作用素の場合には、複素線積分での積分作用素表示を利用して、コーシーの留数定理とフレッドホルム行列式の跡公式を利用して、行列式の無限積表示を得た。転送作用素の重み関数の次数を様々に変化させることで、複数の次数の転送作用素があるが、それらに対して、フレッドホルム行列式の零点の逆数がすべて転送作用素の固有値になっていることをたしかめ、それらの固有関数をすべて決定した。 また、完全連続作用素の双対作用素もまた同様の固有値をもつ。それらもすべて決定した。次数が1だけずれた転送作用素のフレッドホルム行列式に比は、いわゆるゼータ関数になる。この研究で研究対象としたリュエルの転送作用素では、そのゼータ関数はアルチン・メーザのゼータ関数とよばれる古典的なものである。
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