ビームの結晶化を実現する上で問題となり得る効果のうち、「外部集束場の周期性に起因する共鳴不安定性現象」および「双極磁場が生み出す運動量分散効果」の二つについて詳細な検討を加えた。クーラー蓄積リングTARNIIのラティス構造を具体的に考慮したシミュレーション研究によって、以下のような知見が得られた: (1).共鳴不安定性によって、ビームの性質が著しく劣化する。とくに、2次と4次の共鳴が問題である。 (2).ビームを冷却する過程で半整数共鳴(2次共鳴)の禁止帯に遭遇した場合、それ以上の冷却は困難である。 (3).単一ラティス周期構造当たりのベータトロン振動位相の進みが90度以下であれば、共鳴不安定性による冷却阻害はほとんど起こらない。 (4).高周波電場によってバンチされたビームが結晶化された場合、蓄積リング固有の運動量分散の影響で、結晶構造全体が水平方向に周期振動する。このため、結晶化したビームの温度がレーザー冷却のドップラー限界を大きく上回ることがある。 (5).バンチされたクリスタルビームの結晶構造転移は、連続ビームの場合とは異なる閾値で発生する。 尚、使用したコードは分子動力学コード"SOLID"およびPICコード"SIMPSONS"で、いずれも粒子間クーロン相互作用を近似的に導入することが可能である。極低温領域におけるビーム物性を調べる目的には主に前者を用い、冷却初期の高温状態をシミュレートするのには後者を使うことによって計算時間の短縮をはかった。
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