昨年度まで使用していた分子動力学コード"SOLID"に大幅な改良を加え、実際のレーザー冷却過程がほぼ正確にシミュレートできるようにした。具体的には、単位数値積分ステップ当たりのレーザーフォトン吸収回数を算定した上で、モンテカルロ計算を行っている。これにより、フォトンの吸収および放出時における確率的な拡散加熱効果(一種のランダムウォーク)が導入可能になった。また、冷却セクション中でのレーザービーム径の変化も取り入れている。この改良型コードを用いて、とくに線密度の低いビームのレーザー冷却シミュレーションを系統的に実行してきた。データはまだ予備的であるが、(1).共鳴結合法を適用しない限り、横方向自由度を効率良くレーザー冷却するのはきわめて困難であること、(2).運動量分散効果による結晶状態の不安定化が予想通り厳しく、現実の蓄積リングでビーム結晶化を達成するためには、非常に綿密なラティスの最適化が必要であること、などが強く示唆されている。 SOLIDの改良バージョンによる数値計算にはかなりの時間を要する上、ルンゲクッタ積分法が用いられているためロングタームの粒子トラッキングには不向きである。この点に鑑み、現在全く新しい分子動力学コードの開発を行っている。新コードは改良版SOLIDの利点をすべて含んでいるだけでなく、数値積分はシンプレクティックに実行する。また、様々な初期分布の設定や、ビームとラティスの整合も自動的に達成できるルーチンも加わっている。 他方、本研究で得られた知見に基づき、京都大学で建設中の小型クーラー蓄積リング(LSR)のラティス特性を吟味した。低次共鳴現象の発生条件や結晶基底状態の安定性等を考慮し、LSRの基本パラメータを設定すると同時に、SOLIDを使ったシミュレーションも行った。
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