3つの極性基を有する平面性化合物、メラミン(M)またはシアヌル酸(C)の蒸着単分子層(厚さ0.3nm)における分子の自己組織化を利用して、原子の六方ネットワークの形成を試み、これを水素結合の生成に伴う電子構造の変化から観測することを試みた。また、二成分系蒸着膜において各分子が同種・異種分子を認識する能力を利用して、サブナノスケールの周期構造を付与した組織体を創成することをめざした。 超高真空下、低温に保持したグラファイトの劈開面にMまたはCを蒸着して単分子層を形成後、基板を室温まで昇温しながらペニングイオン化電子スペクトル(PIES)と紫外光電子スペクトル(UPS)を測定した。また、M、Cの1分子ならびに六方ネットワークの部分構造に対して非経験的MO計算を行った。計算結果を参照しながらPIES/UPSの変化を検討し、次の結論を得た。 (1)低温で形成した単一成分の単分子層において分子は幾分ランダムな配向をとる。昇温により分子がflat-on配向で規則正しく配列するようになるとともに水素結合が導入されて安定なネットワークが形成され、新しく生じたMOに基づくバンドがPIES/UPSに検出された。これは単分子層内で起こる自己組織化である。(2)再冷却したM単分子層の上にC単分子層を形成し室温までアニールした二分子層と、C単分子層の上にM単分子層を形成しアニールした二分子層のスペクトルは本質的に同じであり、各成分に基づくバンドと新しいバンドが現れた。このことは、いずれの場合も上層と下層の分子の交換が起こり、ヘテロネットワーク二分子層に変換されたことを意味する。M、C各分子が異種の分子を認識して選択的に自分の周りに集めているならば、極薄膜で起こる分子認識現象により、サブナノスケールで組成を周期的に変調可能な極薄ネットワークを形成できる可能性が開ける。
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