研究概要 |
金属ナトリウム原子をガラスセル中に封入した試料を用いて、ナトリウム原子の量子干渉効果、あるいは、電磁誘導透過(EIT)の実験を行った。EITの信号は、超高分解分光に用いられ、その信号線幅は1kHzをはるかに下回る超狭線幅を示すことが知られている。また、このことから、原子時計、微弱磁場測定、超低群速度の観測や光情報記録等への応用が考えられている。我々が最も興味があるのは、バッファーガスの種類や圧力、磁場シールド、ビーム強度、ビーム径、ビームの平行度、高安定シンセサイザーの導入等の実験技術の改良でどこまで線幅が狭くなるかであるが、今回、さらにEITのヘテロダイン検出を行うことで、さらなる実験技術の改良を行った。すなわち、従来のプローブ光、カプリング光によるEIT観測に加えて、プローブ光と周波数が80MHzほど異なるレファレンス光を導入する。これにより、従来プローブ光の強度測定により観測していたEIT信号を、レファレンス光とのビート信号として観測することができ、これをダブルバランストミキサーを用いて位相検波することで、光の位相を含めた振幅観測ができる。これにより、1.微弱なプローブ光強度でも測定が可能である。2.吸収信号のみならず、分散信号の観測が可能である。3.分散や群速度の見積りが容易にできる。4.ロックイン検出によるさらなる信号のS/N比の向上が期待できる。5.位相を含めた光情報記録への応用が現実的なものとなる、等のさまざまな利点が得られた。実際にナトリウム原子のD2線(589.6nm)を用いて実験を行ったところ、460Hzの非常に狭い線幅を観測することに成功した。これから見積もられる分散は、3.3×10(-10)Hz-1、群速度は1,800m/sとなり、真空中の光の速度の170,000倍の遅い光パルスを得ることができた。ただし、実際のパルス速度の観測は行っていない。さらに、EIT信号線幅、あるいは分散のカプリング光強度依存性が解析され、カプリング光が強くなるにしたがって、一般に線幅が広くなること、分散はしかしながら大きくなること、等が結論された。これらの結果はOptics Lettersに投稿され、近日中に出版される予定である。
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