溶液で光学活性の測定が古くから盛んになされてきたトリスエチレンジアミンコバルト錯体ヨウ化物([Co(en)_3]I_3・H_2O)を合成し、結晶化を行った。本研究で光学活性と構造との関連を研究するために、合成した錯体の構造解析が未知であったためX線構造解析を行いその分子構造及び結晶構造を決定した。また、合成した錯体の単結晶を作成し、その各結晶軸方向での光学活性(旋光性及び円二色性)の波長632.8nmにおける温度依存性をHAUPで測定した。この物質は溶液では500nm付近にコットン効果最大を有する。今回測定した632.8nmの波長ではその付近から外れているためHAUPにより測定された結晶の光学活性の結果はどの方向においてもほとんどゼロであった。大きさは各方向10^<-6>〜10^<-7>のオーダーであり、温度による増減は温度に対して線形な変化で近似された。また、その傾きは正負の符号を含め大きさが各方向で多少の違いがみられた。今後はこの錯体を用いて溶液でコットン効果最大を有することが確認されている500nm付近でのHAUPによる単結晶の光学活性を測定し、各方向での測定結果の違いを鮮明にすることが課題としてあげられる。また、その付近での波長分散の測定も行っていく予定である。 タンパク質に関しては、リゾチームの単結晶の作成を行い、HAUPで測定するのに必要な大きさ約1〜2mm角の単結晶作成に成功した。今後、作成したリゾチーム単結晶を用いてHAUPによる光学活性を測定していく予定であるが、タンパク質結晶特有の乾燥に弱い、結晶がもろい、といった取り扱いの難しさから現在は測定には成功していない。しかし、この問題は取り扱い方法を工夫することでまもなく解決されると思われる。また、リゾチームでの測定方法の確立がなされた後には、α-helixのみからなるタンパク質単結晶の光学活性を測定していく予定である。
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