我々はHAUP法を用いて結晶の光学活性(円二色性、旋光分散)の測定を試みた。用いた結晶は有機金属錯体トリスエチレンジアミンコバルト錯体のヨウ化物単結晶で、溶液中では可視領域にコットン効果最大をもつ物質である。我々はタンパク質単結晶光学活性測定を最終目的としてHAUP法での二色性分散および旋光性分散測定の手法を確立するためにこの物質を用いた。吸収を含めない場合の光学活性のHAUP法での測定は確立されているが、今回我々が試みたのは吸収を含めた場合の光学活性測定であり、その場合のHAUP法における原理式は既に理論的に確立されているが実際の測定はまだなされていなかった。今回用いたコバルト錯体による測定で明らかになったことは、従来の吸収を含めない場合のHAUP法に比べ吸収を含めた場合、系統誤差のパラメータがこれまでの手法では決定することができないということだった。そこで我々は原理式の理論値と測定による実験値を最小二乗法でフィッティングさせる手法を試みた。それにより結晶軸の各方向での二色性分散および旋光性分散を求めることができた。しかし、この波長領域では近似のために用いた条件が成り立たなくなることが判明し、より正確な解析が必要であることがわかった。 今回の研究ではタンパク質単結晶のHAUP法での光学活性測定には至らなかったがこれまでコバルト錯体と同様に可視領域にコットン効果最大を有するヘモグロビン単結晶の作成に成功し測定手法確立しだい測定できる状況にある。また、将来的にα-helixによるコットン効果を示す紫外領域用測定試料としてほぼα-helixが一方向に配向しているインターフェロンβの大腸菌発現系を作成し準備した。 今後は系統誤差の解析手法を確立し、タンパク質の光学活性測定に応用していく予定である。
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