研究概要 |
植物中に見られる代表的な生体鉱物としてシュウ酸カルシウムが知られている。シュウ酸カルシウムにはシュウ酸カルシウム1水和物とシュウ酸カルシウム2水和物が知られているが、植物の種によって、シュウ酸カルシウム1水和物を含むもの、シュウ酸カルシウム2水和物を含むもの、あるいは両者を含むものがある。常温常圧ではシュウ酸カルシウム2水和物は不安定であり、安定なシュウ酸カルシウム1水和物に相転移する。しかしながら、植物中ではシュウ酸カルシウム2水和物が安定に存在する。 本研究では、植物種によって異なったシュウ酸カルシウム1が生成されることに着目して、結晶成長の環境にどのような違いがあるかを研究した。今回の研究では、シュウ酸カルシウム1水和物を含む代表としてばら目あじさい科アジサイ、近縁のウツギ、プラタナス、シロツメクサ、クズ、キイチゴ、ノイバラ、サクラを、またシュウ酸カルシウム2水和物を含む代表としてあかざ目あかざ科ホウレンソウ、近縁としてシロザ、イノコヅチ、マツバギク、アメリカヤマゴボウについて調べた。走査型電子顕微鏡観察では、シュウ酸カルシウム1水和物は針状の結晶であり、しばしば針状結晶が集合して棒状の形態を示す、またシュウ酸カルシウム2水和物は、薄板状の結晶で、しばしば薔薇花弁状の集合の形態を示した。これらの植物中の結晶を乾燥・粉末化して粉末X線回折を行い、シュウ酸カルシウム1水和物またはシュウ酸カルシウム2水和物の同定を行った。組成分析の結果は、両者の結晶及及び周辺にはSr,Mn,Pが同程度含まれており、結晶生成環境に大きな化学的な差はなく、結晶の選択制は生物的なものによる可能性が高い。
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