Ag(110)表面に酸素が吸着するとAg-Oの1次元鎖が生成する。この1次元鎖構造は、紫外光励起やCOとの化学反応により分解する。この分解反応を、走査トンネル顕微鏡(STM)を用いて、反応メカニズムを原子レベルで明らかにした。光反応では、表面近傍に存在する残留炭素とOが反応してCO2として脱離していく。このとき、1次元鎖構造は、(2x1)構造から(3x1)、(4x1)と変化していく。また、50ナノメートルの鎖が、ぶっ切れになった様子が観察され、OとCの反応が、C近傍で起こり、生成したCOが近くの酸素原子と反応してCO2になる、という反応メカニズムが推測される。一方、COによる化学反応では、残留炭素が存在する条件では、鎖は(2x1)の島状構造を保ったまま、鎖の数が減少していく。一方、清浄な表面では、(2x1)から(3x1)、(4x1)へとOの被覆率に応じた構造変化を示した。残留Cが僅かに存在すると鎖の間に引力相互作用をもたらすことを示している。Oの被覆率が減少してくると、鎖は揺らぎ、一つの長い鎖というよりもむしろ短い鎖の断片が繋がって一本の鎖になる。反応速度は、OとCOの被覆率に比例する単純なモデルでは再現せず、鎖の断片数に比例するというモデルで再現された。時間分解STMの実現に向けて、試料として、金属クラスターを検討していたが、これらは、電子準位をレーザーの励起光にチューンすることが予想以上に困難であるため、新たなターゲットとしてカーボンナノチューブやC60を選ぶことにした。これらを金基板上に吸着させてモデルシステムを構築する。金基盤は、天然マイカ基板上に、金を蒸着させて作製した。適当な前処理をすることにより、Au(111)構造特有の超構造と(1x1)格子をSTMで観測した。今後、カーボンナノチューブ等をその上に吸着させる条件を決めていく予定である。
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