研究概要 |
交差共役8π系化合物であるトロポン(1)は,[4+2]付加,[6+4]付加,[2+2]付加反応など多様な反応形態をとる特徴を有することから,膨大な反応例が報告されている。対して,1の硫黄類似体であるトロポチオン(2)は,相手が2π系,4π系,6π系のいずれのπ系においても選択的に[8+2]付加反応を起こすことを申請者は見い出している。これらの事実をさらに追及して,これら基本的な環化付加反応の真の反応機構を明らかにし,従来の定説を根本的に改変することを目的に研究をおこなった。 8π系のトロポンならびにトロポチオンと2π系のベンザインの環化付加反応について,ベンザイ前駆体をかえたり,反応溶媒を変えたりして種々反応条件を検討した。さらに,低温から室温にいたるさまざまな温度でのNMRスペクトルの測定による詳細な反応過程のモニターを行い,低温における反応条件下で真の反応の中間体(初期生成物)の捕獲を行なった。最新の分析測定法を用いてその初期生成物の構造を明らかにした。さらに,最先端NMR法によって反応によって得られる中間体の構造を解析した。また,高速液体クロマトグラフィーを用いて反応生成物の詳細な解析をおこない,いくつかの新規化合物を得ている。これら新しく得られた化合物の構造解析ならびに,高速液体クロマトグラフィーによる反応解析をおこなっている。得られた実験結果に加えて,半経験的分子軌道理論による検討も行い,環化付加反応の反応機構を明らかにすべく検討をおこなっている。
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