生体膜輸送を仲介する天然イオノフォアは、球状の金属イオンを基質とするにもかかわらず、分子骨格中に多くの不斉炭素を持っている。その結果、導入された不斉置換基の特性を活用してより安定な金属錯体を形成できるようイオノフォア配位子の構造が固定化され、錯体機能の高次化が実現されている。このことは天然イオノフオア系での生物進化の過程において、優れた機能発現のために最適な立体化学が獲得されたものと考えられる。合成金属イオン認識分子の開発においても同様に、分子キラリティーを制御・最適化することが、優れた錯体機能を発現させる有力な方法論となる可能性をも示している。 本研究では、当研究グループが先に開発した生体触媒を用いる光学活性ピリジン誘導体の光学分割プロセスを用いて、これらをキラルなビルディングブロックとする連続的なN-アルキレーション反応を行い、多様な立体化学をもつ光学活性トリス(2-ピリジルメチル)アミン型配位子の系統的な合成をはじめて実現した。トリス(2-ピリジルメチル)アミン誘導体は、遷移金属イオンのための有効な配位子として知られているが、各種光学異性体を配位子として含む希土類錯体を調製し、希土類発光過程を詳細に検討した。その結果、トリポード型配位子上への不斉置換基の導入は、希土類錯体の安定性には大きな影響を与えないものの、希土類錯体の配位子場対称性を変化させ、希土類発光機能を効果的に制御・向上できることがわかった。これにより、キラリティー制御型配位子の新しい有効性が実証された。
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