動物の行動が遺伝するかどうかという研究は、進化生物学においてきわめて重要であるが、その多くはジョウジョウバエ等の小動物で行われてきた。本研究は、行動観察が困難でかつ大型の動物の一つであるサケ・マスを用いて、その繁殖行動の遺伝的研究の技術開発を行おうとするものである。本年度は、特にいままでに申請者らが記録してきたサケ科魚類の繁殖行動のビデオと既に報告されている論文を用いて、それらの行動に個体群ごとに違いがあるかどうかを明らかにしようと試みた。結果は以下の通りである。ミヤベイワナ(オショロコマの1地方個体群)とアラスカ産オショロコマの産卵行動を比較した。ミヤベイワナの河川残留型には雌の放卵直後に活発な卵食行動が観察された。しかし、アラスカ地方のオショロコマではこの卵食行動がほとんどみられないか、たいへん少なかった。この繁殖の際の食卵行動の頻度の差は選択によって生じた可能性が強く、遺伝的基盤を持つ可能性が大きいことを示唆した。また、ミヤベイワナ雌はこの残留型の卵食行動に対抗して、産卵回数を減らす傾向にあったが、アラスカ産のオショロコマではこうした傾向は認められなかった。 また、本年度は、総延長10mに達する魚類行動観察用の大型水槽の設計を試み、現在申請者が所属するセンターの職員によってその建設が進みつつある。本水槽はグラスゴー大学フィールドセンターが所有する大型水槽を参考として設計された物であり、一定の流速を持ち、深さも最大70cmを維持できるようになっていることから、大型サケ科魚類から小型の水生生物の繁殖行動や摂食行動などの観察に適していると考えられる。現在のところ、14年度4月までに設置できる予定である。
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