日本の河川は諸外国の河川に比べて急流であるため、プランクトンや付着力の弱い生物の生存には適さないと考えられてきた。しかし、河床付近では流速がゼロになるかまたは、ほとんど無視できるほどに低くなる粘性境界層が形成され、粘性境界層では浮遊または付着力の弱い微生物が生存可能である。本研究では、水中で石等の基質を採取することで粘性境界層ごと微生物を採集できるサンプリング方法(水中採取法)により河床の微生物現存量を評価し、河床生態系における微生物ループの存在を検討した。水中採取法を用いて求めた細菌、鞭毛虫、繊毛虫の細胞密度の方が従来の方法を用いた場合よりも高い傾向が得られた。このことから、河床には粘性境界層のような浮遊あるいは付着力の弱い微生物も生息可能な条件が存在することが示唆された。原生生物のうち鞭毛虫と繊毛虫は、湖沼や海洋の浮遊生物食物網において主要な細菌摂食者であることが明らかとなっているが、河床環境においてこのような原生生物と細菌間の食物連鎖に関する報告はない。次ぎに本研究では、これら原生生物の細菌摂食者としての相対的重要性について、蛍光ビーズ法により評価した。調査を行った河川では、鞭毛虫が細菌摂食者として繊毛虫よりも重要であった。しかし、これらの原生生物による細菌摂食の総量は、一日に細菌現存量の0.7%しか消費しないことが分かった。すなわち、河床において微生物ループは機能しているものの、河床生態系の食物網を介した物質循環における有機物伝達の役割は小さいと示唆された。 なお、本研究で得られた成果については、平成14年8月に韓国・ソウル市で開催された国際生態学会(INTECOL)、および日本陸水学会(東京・府中市)と日本微生物生態学会(三重・津市)において、それぞれ報告を行った。
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