全ゲノムの塩基配列が明らかになっているラン藻Synechocystis sp. PCC6803を用いて、ラン藻における脱水・乾燥ストレスに対する分子機構を解明することを目的として、本研究を開始した。本年度は脱水・乾燥ストレス条件と生存率との関係を調べ、ついでその条件で転写が増加あるいは減少する遺伝子を調べた。細胞をセルロース膜上にのせ、34℃で湿度85%に置いたところ、2時間で細胞の相対重量の85%にあたる水分が失われたが、生存率は維持されていた。その生存率は、3時間後に50%、4時間後に20%に低下した。この条件で、脱水・乾燥1時間後の転写産物をDNA microarrayを用いて調べたところ、処理前に比べて2倍以上に増加したORFが52個見いだされ、逆に半分以下に減少したORFは87個確認された。このことは全ORFの約5%が転写の影響を受けたことを意味している。そこで、変動したORFについて発現の時間変動を調べたところ、DnaK(sll0170)、HspA(sll1514)、ClpB(slr1641)、ClpC(sll0020)、ssl0438などが30分以内で発現増加し、GgpS(sll1566)、QueA(sll0467)は1時間後に増加が認められた。また、RbcR(slr1594)、PsaA(slr1834)、RpoE(slr1545)、ApqZ(sll2057)は徐々に減少した。なお、セルロース膜上に細胞をのせた時に、DnaKやClpCは発現していた。RbcRやPsaAはルビスコ及び光化学系lの遺伝子であることから、ラン藻が脱水・乾燥条件にさらされると、光合成関連タンパク質の発現が低下し、乾燥ストレス応答を示すことが推測された。
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