研究概要 |
生体硬組織の代価や捕綴を目的として使用される金属系生体材料は,in vitroでは高い耐食性を有するが,in vivoでは比較的容易に腐食が生じ,その安全性が問題視されている.本研究では,生体内のin vivoにおける腐食メカニズムを解明することを目的として行われたものである.生体内における腐食挙動を模擬するため,U937細胞を分化することにより得たマクロファージを培養し,これを含む培養液中においてステンレス鋼の腐食試験を行っている.また,培養液中における腐食反応速度は交流インピーダンス法により測定し,浸漬時間の経過にともなう腐食速度の変化を調べた.その結果以下の事柄があきらかになった. (1)マクロファージを含む培養液中に浸漬した試料は,試料表面には極微細な凹凸が多数形成され,時間経過とともに粗さと腐食反応速度が増加することが明らかとなった.このことは,マクロファージの存在が生体材料の腐食に大きな影響を及ぼすことを示すものである. (2)ポリエチレン粒子を貪食させることにより,免疫反応を活性化させたマクロファージを含む培養液中の試料の場合,その表面粗さ,腐食反応速度ともにそれを貪食していない場合と比較して大となることが明らかとなった.このことは,マクロファージの活性化が金属材料の腐食を促進させることを示唆するものである. (3)マクロファージおよび活性化したマクロファージを含む培養液の場合,試料表面より金属イオン(Fe,Ni,,Mo)の溶出が増加することが明らかとなった.このことは,マクロファージの貪食反応が生体材料の金属溶出に多大な影響を及ぼすことを示すものであり,(1),(2)で述べた腐食反応速度の変化と定性的には一致している. これらの研究結果を基礎として,生体材料のin vivo腐食モデルを提案し,それにより一連の実験結果が矛盾なく説明できることを示した.
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