走査型力顕微鏡は微小なカンチレバーの先に付けた突起を試料に接触させて探針として用いることにより、数十nmから数百nm程度の高分解能で試料表面の凹凸や力学的特性を可視化することができる。摩擦力顕微鏡においてはカンチレバーのねじれから摩擦力を検出するが、本研究者らはカンチレバーのねじれ固有振動がこの検出信号に重畳していることを見出し、固有振動数の振幅成分から試料表面性状を可視化する方法を研究している。当初は走査中に熱振動などで生じる振幅10pm_<p-p>程度の固有振動を検出していたが、振幅が不規則に変化して観察が困難なため、カンチレバーの根元もしくは試料の下にせん断ピエゾ素子を取り付け、強制的に数百pm_<p-p>から数nm_<p-p>の振動を加えている。窒素を用いて湿度を変化させながらシリコン上に形成した酸化シリコンのパターンを観察する実験では、試料表面の酸化(1〜2nm程度)が進むにつれてパターンのコントラストが劣化することから、本手法が比較的表層の特性を捉えていることがわかった。また、金で被覆した雲母上のチオール系自己組織化単分子膜観察では、加える振動数を変化させて周波数によるコントラストの違いを調べた結果、(1)低周波(10kHz程度)の加振では主に探針-試料間の摩擦力変化が観察されること、(2)固有振動数以上(500kHz程度)では試料に対して相対的に探針が硬くなり試料の横方向の弾性変化が観察されること、(3)固有振動数(450kHz)付近ではメニスカスカなどの粘性の変化が観察されるが、同時に振動特性のQカーブが変化するため固定周波数の加振では固有振動数の前後でコントラストが反転すること、などの知見を得ている。現在、検出された振幅を加振信号に帰還することで自励振動を励起することに成功しており、今後はこの方法を用いて観察結果を増やし、現象の解析を続ける。
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