摩擦力顕微鏡は微小なカンチレバーの先に付けた突起(探針)を試料に接触させ、カンチレバーのねじれから摩擦力を検出する。本研究者らはカンチレバーのねじれ固有振動がこの検出信号に重畳していることを見出し、この固有振動から試料表面性状を検出・可視化する方法を研究している。前年度はカンチレバーの根元もしくは試料の下にせん断ピエゾ素子を取り付け、強制的に数百pm_<p-p>から数nm_<p-p>の振動を加えていたが、固有振動数(450kHz付近)の両側で周波数特性(Qカーブ)の増減が逆転するため固定周波数の励振では測定条件によりコントラストが反転していた。今年度は、検出された振幅を励振信号に帰還することで、常に固有振動の励起を行なっている。固有振動を用いることにより、安定した小振幅の振動を維持しやすいと考えられる。金表面に生成した自己組織型単分子膜の観察では、終端が疎水性の分子と親水性の分子で振幅が変化することを確認している。従来は励振周波数を一定に保って振動振幅の変化を検出していたが、本手法では周波数も変化するため、周波数変化の可視化を試みている。現状では単分子幕の土台となる金薄膜の数十nmに及ぶ凹凸に対応してパターン化された二値画像が得られており、それぞれが探針-試料間のスティック状態およびスリップ状態の共振周波数に対応するものと考えている。厚み数nmの単分子膜の特性変化を捉えるためには、平坦な金薄膜の生成および走査速度の最適化が必要である。
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