研究概要 |
構造物を設計する際には、地震工学的観点から"現在から将来にわたって当該地点で考えられる最大級の強さを持つ地震動"をレベル2地震動とするとする見解が出されているが,すべての巨大災害に対応しようとして過大な防災投資を行うと住民の日常生活に支障をきたす可能性があるが,逆に過小な防災投資では被災時に地域社会が崩壊してしまう恐れがある.そこで地域社会が被災した時それ自身を維持するために必要な資源,つまり修復機能が発揮できるような資源が残るように防災投資水準を決定し,その下で実現可能な設計地震動を合理的に設定する必要がある. そこで本研究では,被災しても地域社会が維持できる限りいずれは復興できるとの考えに基づき,住民が地域社会の崩壊を避けるために投じてもよいと考える防災投資によって対応しうる災害規模の上限に着目し,防災対策で対象とすべき設計地震動の設定方法論を開発する.今年度は,まず1人の個人から成る地域において単位期間に必ず地震が発生する状況を想定し、地域社会を維持するために最低限必要な合成財の消費水準を保つための耐震投資水準とその下で耐えうる最大限の地震動をレベル2地震動として導出するモデルを構築した。しかる後,これに、地震の規模別発生確率を導入し、地域社会を維持しえない地震の発生確率を減少させることに対する個人の支払い意志額と確率を減少させるために必要となる耐震投資の限界費用とを比較してレベル2地震動を導出するモデルへと拡張した。構築したモデルを用いていくつかの数値分析を行い,地域が有する全ての富を防災投資に振り向けるより一定額を合成財として留保し防災投資水準そのものは少し低くしておく方が地域社会が耐えうる災害規模の上限はかえって高くなること,住民が危険回避的であるほどレベル2地震動を大きく設定する傾向があることなど,いくつかの興味深い知見が得られた.
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