研究を行うにあたって、まず試料であるSi表面を清浄化する必要があり、さらにSnを固溶させるため1060℃という高温で保持する必要がある。現有の超高真空チャンバーは試料の清浄化のために試料の背面から電子ビーム照射で加熱する方法をとっており、短時間の間なら超高真空を保ったまま試料を1200℃に加熱して酸化膜や不純物を取り除き、清浄表面を得ることができるが、Snを固溶させる条件である試料温度1060℃で長時間保つには、この加熱方法では試料近辺から大量のガスが放出されるため超高真空が保てなくなり、試料が汚染されてしまう可能性が大きいことがわかった。そのため、試料交換機構を犠牲にして多少実験効率が落ちることを覚悟して、試料の加熱方法をガス放出の少ない通電加熱にするように試料ステージを改造した。また、試料の大きさも10×10mm^2だったところを電子顕微鏡観察用試料を作製するために最小限にして試料の幅を3mmに変更し、放出ガス量を少なくするように工夫した。Snの蒸着は、金属塊を同じチャンバーに取り付けられたタングステンバスケットの中に入れ、バスケットを加熱することにより蒸着した。Snの蒸着量を見積もるために、Si(111)表面上にSnを1/3ML蒸着したときに形成される表面超構造である√3×√3構造を観察することにした。その構造を観察するために反射高速電子回折法(RHEED)を用いたが、途中で電子線のレンズである電磁石に電流を供給する電源が故障したため、修理と調整を行った。今後はこれまでの予備実験の結果を元にSnがSi基板に固溶させるために最適な条件を詰める実験を行う予定である。
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