研究概要 |
遷移金属の電析形態や薄膜構造に及ぼす超強力磁場効果に関する研究は材料科学に新しい展開をもたらす可能性がある。すなわち強力磁場中ではMHD効果により流動が抑制され,地上実験でも微小重力環境と類似の効果が期待でき,又,超強力磁場勾配中では析出金属の磁化率によって薄膜微細構造が大きく影響される可能性が考えられる。本研究では大きな結晶磁気異方性を有するFeをFeSO_4-FeCl_2-NH_4Cl水溶液中(pH=1.5,298K)で磁場中電析させ、電析薄膜の配向制御を試みた。作用極にはCu板(1cm^2)、対極にはFeを使用し、向き合った形でダクトセル(1x1x3cm)内壁側面に電極を配置した。参照極には銀-塩化銀電極を使い、塩橋とルギン管を通じてセルに接続した。10mAcm^<-2>の定電流で通電量が150クーロンに達するまで電析を行った。東北大学金属材料研究所強磁場センターの6T超伝導マグネットを用い、電極面に対して磁場を平行に印加した。 電析膜のX線回折結果によれば0Tの場合、電析膜が(211)面に配向していた。一方、5Tの場合は、(211)面の他に(110)面のピークが若干大きくなっていた。(211)面でのピークの半値幅を比較すると、磁場印加により結晶粒が小さくなった。磁場強度と配向性の関係を検討したところ、磁場の有無に関わらず今回の実験では(211)面が優先配向していることが明らかとなった。磁場強度の増加に伴って配向性が若干変化する傾向にあるのは、MHD効果(Magneto Hydro Dynamics Effect)によって溶液が撹拌され、電極近傍での物質移動の促進により、陰極表面のpHの上昇が抑制され、電析機構が若干、変化したためであろう。今後は電析薄膜の集合組織を検討しつつ、pH、電流密度、磁場印加方向を変化させつつ、陰極表面pHを推定することにより、磁場と電析薄膜の配向性との関係を明確にし、同時に、他の遷移金属や合金系についても検討を行いたい。
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