圧力は有用な実験変数であり、これまで蛋白質や脂質、生体膜の構造形成・安定性・ダイナミクス、あるいは機能の研究に広く適用されてきた。しかし、核酸の構造や機能に対する圧力の効果は研究例がなく、核酸の構造や機能を理解する上でも重要かつ興味ある問題であると永らく指摘されてきた。一方、核酸の持つ遺伝情報発現機能において、その高次構造の変化・制御がきわめて大きな役割を果たしていることは広く認識されて久しいが、タンパク質とは異なりその構造変化を直接観察できることはきわめてまれであり、何らかの構造変化の「固定化」「可視化」の方法論が必要である。そこで本研究では、上記の酵素反応を介しての「可視化」原理を、これまでの核酸のローカルな構造についてだけでなく、より高次の構造-すなわち超螺旋構造-にまで拡大適用することを主眼としている。 本年度はDNA topoisomerase IおよびT4 DNA ligaseなどが引き起こすDNA supercoilの緩和(あるいは緊張)反応を用いて、加圧下でのtopoisomerの平衡分布変化を固定するという手法により、topoisomersの分布に対する圧力・温度の効果を調べた。 具体的には○指標とする酵素反応系が、対象圧力・温度域において正常な触媒作用を行えるかどうか、○核酸の基本構造(2次構造)が対象圧力・温度域において安定であるかどうかを調べ、○一連の核酸・酵素の組み合わせに対する最適化条件を探索した後、広い圧力・温度域において、超高次構造(超螺旋構造)の解析を行い、熱力学的解釈を得た。
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