申請者らは、分子のキラリティーに応答してらせんが誘起される極めてユニークな立体規則性ポリアセチレンの開発に成功している。側鎖にカルボキシル基等を有する光学不活性なポリフェニルアセチレンが、溶液中、光学活性なアミンなどの存在下、誘起円二色性(誘起CD)を長波長領域に示し、誘起CDの符号と強度が光学活性体の絶対配置、立体構造の予測に繋がることを見い出した。さらに、極く最近、光学活性体存在下誘起されたらせん構造が、光学不活性な化合物で置換後もそのキラリティーを記憶として保持していることを発見した。以上の結果をふまえ、本研究では、これまで報告例のまったくない、らせんキラリティーの誘起におよぼす同位体効果についてまず調べるために、主鎖および側鎖のフェニル基を部分的および完全に重水素化した3種類の光学不活性なフェニルアセチレンモノマーを合成し、ロジウム触媒を用いた重合を行い、らせん誘起に及ぼす同位体の効果を軽水素からなる系と比較検討した。その結果、主鎖および側鎖のフェニル基を完全に重水素化したポリマーが、軽水素からなるポリマーと比べ、光学活性アミンやアミノアルコール存在下、らせんが誘起される速度や発現するCDの強度に違いがあることを見い出した。この違いが同位体効果にもとづくものであるかどうかを結論づけるためには、再現性を含めたさらなる検討が必要である。また、この研究を行う過程で、軽水素からなるフェニルアセチレンモノマーを水溶性のロジウム触媒を用いて重水中で重合を行うだけで、効率良く主鎖を重水素に置換出来る手法を開発した。この手法は、他の多くのアセチレンにも適用可能であると思われる。
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