シリカ微小球配列体(シリカオパール)の空隙に発光性物質を埋め込んだ系や微小球配列体のレプリカを用いるいわゆるポリマー逆オパールの調製、発光制御を目的として、最終年度の平成15年度は引き続き粒子径の異なるシリカオパールの作製法の検討やシリカオパールの空隙に充填する新規物質系の探索に加えて、ポリマーの持つ柔軟性を利用し、ポリマー逆オパール作製後その結晶構造を変化させることが可能であることから、力学変形による光学特性の評価を行った。 フォトニッククリスタルの特性に影響を与える因子として異なる誘電体間の屈折率のコントラストとその結晶構造の2点が挙げられ、誘電体微小球の形状の対称性や誘電体微小球の配置の対称性を下げることにより、完全なフォトニックバンドギャップ(PBG)を形成させるために必要な屈折率のコントラストを低下させることができると考えられる。シリカオパールは自己組織性を持っているため、自然沈降法による作製法を用いる限り、シリカオパールの結晶構造を変化させることは困難であり、シリカオパール結晶の機械的な安定性が低いので、シリカオパール形成後に外部の力を加えることによる結晶構造の変化は不可能であることを実験例を持って示した。そこで、ポリスチレン(PS)やポリメタクリル酸メチル(PMMA)のようなガラス状ポリマーを用いてシリカオパールの空隙にモノマーを充填して光重合させた後、シリカオパールのみを選択的にフッ化水素酸で除去する方法でポリマー逆オパールを作製した。PSまたはPMMA逆オパールを作製したのち、加熱して(水浴中87℃)一軸延伸(延伸比1.5)を加えることにより変形させた。変形後の逆オパールの外観から変形前の逆オパールの反射光とは色が異なるものの、屈折率の周期性に依存する反射光が観測できたので、一軸変形後も屈折率の周期性が保持されていることがわかった。また、室温に戻しても変形後の逆オパール構造は保持されており、SEM観察により真球状の空隙が延伸方向に対し平行な断面では楕円形状であることも確認できた。次に、光源としてキセノンランプを用いて透過スペクトルの測定を行い、変形後も逆オパールに対して垂直方向の周期性に依存するストップパンドが観測され、ストップバンドのピーク波長が短波長側へシフトし、このシフト幅が延伸比に依存することがわかった。さらに、室温で変形可能な橋かけポリウレタンを用いてポリマー逆オパールを作製し、室温で延伸、緩和を繰り返すことにより光学特性が可逆的に変化することを確認した。こうして作製したポリマー逆オパールはポリマーのみから構成されているので、あらかじめ充填するポリマーの分子構造を考慮することにより、ポリマーだけで実現できる独自の性質を逆オパール構造に持ち込み発光制御ができることを例証できたと考える。
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