本研究では、乳成分が(1)腸管上皮細胞間タイトジャンクション(TJ)の形成プロセスに及ぼす影響と(2)TJの損傷プロセスに及ぼす影響の2点について検討するが、本年度は特に後者の研究を進めるために必要な実験系の構築を行った。まず、ヒト腸管上皮細胞Caco-2を透過性膜上に単層培養し、ついで基底膜側のチャンバーに免疫系細胞を培養する複合培養系を構築した。その結果、ヒト単球系細胞THP-1をCaco-2細胞の基底膜側で培養することによってCaco-2細胞層の損傷が誘導され、TJ透過性が亢進することが見出された。この実験系は一種の腸管上皮炎症モデルとして利用可能であると考えられる。次に基底膜側からサイトカインを加えてTJ透過性の充進を誘導するものを探索した。Caco-2細胞層の経上皮電気抵抗(TER)を指標に検討した結果、インターフェロンγに顕著な作用が見出され、サイトカイン単独でも類似の腸上皮炎症モデルが構築できる可能性が示された。さらに、免疫系細胞と腸管上皮細胞の直接的な接触を介した相互作用と、それによる腸管上皮炎症モデルの構築を目指して、透過性膜の下側にCaco-2細胞層を形成させ、上側から免疫系細胞を加える新しい複合培養系の構築に着手した。その結果、TERの値がほぼ同じような下向きCaco-2細胞層の作成や、免疫系細胞をケモカインで誘導して透過性膜に進入させることが可能であることを見出した。このような実験系を用いて、次年度はTJ損傷への乳成分の影響について解析を開始する。同時に腸管上皮細胞間タイトジャンクション(TJ)の形成プロセスに及ぼす影響についても予定通り実験を進める予定である。
|