本研究は、腸管の吸収上皮細胞がシグナル受容等にも関与する細胞であることを「乳成分がシグナル因子として腸管機能の調節を行うというプロセス」を例にとって検証しようとするものである。腸管の吸収上皮細胞モデルとしてはヒト大腸癌由来のCaco-2を用い、これを透過性膜上で培養してその粘膜側コンパートメントに乳画分等を添加した。培養によって細胞層タイトジャンクション(TJ)の状態にどのような変化が現れるかを観察したところ、乳タンパク質分解ペプチドのある画分やサイトカインによってTJにおける物質透過性が高まることを見出した。一方、腸管上皮細胞の近傍には免疫系細胞、神経系細胞などが存在し、それらが腸管上皮細胞間隙に進入することが知られるようになったことから、Caco-2細胞層を透過性膜の下側に単層培養し、上側から免疫系細胞を加える新規な共培養法を開発した。このモデル系を用いて、乳成分等が腸管上皮細胞を中心とした細胞間相互作用にどのような影響を及ぼすかを検討する基盤を構築した。乳成分によって細胞間のTJ透過性亢進を引き起こした時に免疫系細胞の挙動がどのように変化するかについての結果はまだ得られていないが、TJ透過性を高めることが知られているある種の食品成分によって、マクロファージ系細胞が腸管上皮細胞間隙に進入することを観察することに成功している。また副次的な成果として、腸管上皮細胞の炎症状態を誘起する新たな実験系を本研究の過程で構築することが出来た。本研究で得られた成果は、腸管上皮の機能や乳の機能に関する新規の知見を提供するのみならず、アレルゲン透過性を抑制する機能を持った調製粉乳や、管透過性亢進の抑制を意図した機能性食品の開発にもつながると考えられる。
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