セルロース繊維表面におけるミクロフィブリルの走行状態、非繊維成分の種類と存在形態は、繊維の表面性状を支配する因子であり、繊維の利用技術を考える上でも極めて重要な要素である。申請者らはセルロース繊維最外層の観察を原子間力顕微鏡(AFM)を用いて分子レベルにまで高めて、その性状を明らかにするとともに、それによって表面性状からみた新たなセルロース繊維最適処理技術の開発のための知見を得たいと考えている。また、セルロース繊維の劣化と表面性状の変化の詳細な観察を通して、古紙利用を今後一層進展させるために必要な基礎的知見を集積したいと考えている。試料に特別な前処理を施すことなく、直接観察できる原子間力顕微鏡は、これらの目的に最も合致していると考えられるが、セルロース繊維、特にパルプ繊維表面への適用例は未だ少ないのが実状である。 申請者らは、AFMを用いたセルロース繊維表面の事前の錫察によって、不規則な形状の繊維表面を観察する上で解決すべき問題点についてほぼ解決を見ているが、セルロース繊維表面観察上の制約条件に関して更に詳細な検討を行い、十分に信頼性ある観察方法を確立することが必要であると考えており、これを本研究の第一の目的としている、この点に関連して、本年度の検討によって大気中での一般的乾燥、凍結乾燥、臨界点乾燥等の試料の乾燥方法が表面構造に著しい影響を及ぼすこと、および臨界点乾燥による試料調製が最も適切であることが明らかとなった。現在、これらの条件で調製した試料について、繊維表面に存在する微細繊維の構造について詳細な観察を続けており、同一の試料の同一部分をFE-SEMにより観察することによりAFMによって得られた繊維表面の映像の解釈をより確かなものにしたいと考えている。
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