セルロース繊維表面におけるミクロフィブリルの走行状態、非繊維成分の種類と存在形態は、繊維の表面性状を支配する因子である。申請者らは原子間力顕微鏡(AFM)およびFE-SEMを用いて分子レベルにまで高めて、その性状を明らかにするとともに、それによって表面性状からみた新たなセルロース繊維最適処理技術の開発のための知見を得たいと考えている。試料に特別な前処理を施すことなく、直接観察できる原子間力顕微鏡は、これらの目的に最も合致していると考えられるが、セルロース繊維、特にパルプ繊維表面への適用例は未だ少ないのが実状である。申請者らは、AFMを用いたセルロース繊維表面の不規則な形状を観察する上で解決すべき問題点については、前年度までの検討でほぼ解決を見ている。今年度は大気中での一般的乾燥、凍結乾燥、臨界点乾燥等の多様な試料乾燥条件が表面構造、とりわけ微細フィブリルの構造に及ぼす影響について、FE-SEM観察も併用して検討した結果、臨界点乾燥による試料調製が乾燥時における形状の変化が最も少なく、最適であることを確認するとともに、いわゆるミクロフィブリル中に高度に結晶したセルロースからなると見られる微細フィブリルと、それをとりまく非結晶構造があることを見出した。この非結晶構造の詳細な存在形態については不明の点も多いが、微細フィブリル表面をらせん状に取り巻いている可能性が高いものと考えている。乾燥条件によって、この非結晶構造部分が膨張、収縮し、結果として微細フィブリル間隙が変化するものと考えられる。このことが、乾燥条件によるいわゆるフィブリルの形状の変化となって観察されるものといえる。非結晶構造の化学構成成分としては、試料パルプには20%近いヘミセルロースが残存していることから、セルロースとともにヘミセルロースがこの部分の主要成分であると予想される。
|