本年度は、実用的な量産レベルへの導入を意識してシステムを構築し閉鎖循環系によるヒラメ仔稚魚の種苗生産を行うと共に、濾材の硝化能力におよぼす枯草菌芽胞の効果について検討した。構築した閉鎖循環式海産魚種苗生産システムによりヒラメふ化後10日目以後全長5cmまでの種苗生産を行ったが、対照区とした従来の流水式種苗生産方式と生残率や成長・餌料効率などの飼育成績によって比較すると、従来の方式にはまだ劣り、飼育海水の循環様式や、給餌方法などさらに改善する余地があることが示唆された。閉鎖循環系においては、その系の中に魚類から排出されたアンモニアが蓄積しないために亜硝酸・硝酸への硝化がスムーズに行われることが重要である。そこで、ろ材の硝化能力を最大限に発揮するために、環境諸条件を変化させて比較検討し、閉鎖循環系海産魚種苗生産システムにおけるろ材の最適な使用条件を検索した。ろ材の熟成期間比較試験によって、枯草菌芽胞を封入したカキ殻ろ材ついで同セラミックスろ材が最短の熟成期間でろ材の硝化能力が発揮されることが明らかになった。ついで、枯草菌芽胞懸濁液を添加した場合、すべてのろ材で熟成期間の短縮効果が認められた。さらに、循環量・ろ材の量・水温・PH・有機物の添加などの条件を変化させ各種ろ材の硝化能力を比較したところ、循環量およびろ材量の増加・水温の上昇でろ材の硝化能力の増加、PHの低下および有機物の添加でろ材の硝化能力は減少することが明らかになった。硝化能力は、当初想定していた枯草菌芽胞が封入された多孔質セラミックスよりも枯草菌芽胞を添加したカキ殻が優れていたが、むしろ硝化細菌数はカキ殻ろ材において少なかった。この原因として、走査型電子顕微鏡による表面構造の観察を行ったところ、カキ殻には極めて微細で複雑な凹凸が観察された。このような構造が、硝化細菌の活性を増強しているのではないかと考えられた。この他、閉鎖循環式海産魚種苗生産システム飼育海水中の細菌相および水質の変化、窒素収支についても検討を加えた。
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