研究概要 |
本研究では,夏季乾乳牛と秋季乾乳牛の泌乳期における乳蛋白生産量を調査すると同時に,乳腺細胞におけるプロラクチン感受性を比較することにより,暑熱環境が,乳腺細胞更新抑制を介して,泌乳期における乳生産を抑制する可能性を検討した.ホルスタイン種乳牛の夏季乾乳牛秋季乾乳牛を供試した.体温調節性生理反応を乾乳開始7日間の午後1〜2時,体重を乾乳7日目および分娩20日目,TDN摂取量を乾乳開始14日間および泌乳最盛期(分娩28〜56日目),泌乳量を泌乳最盛期に測定した.また,血液を乾乳7日目および分娩20日目に乳房静脈から採取した.乳汁採取は分娩19〜21日目に行なった.秋季乾乳牛群に比べて,夏季乾乳牛群の乾乳期における呼吸数と直腸温は有意に高かった.TDN摂取量も有意に低く,Ht値,血中遊離脂肪酸濃度,血中総蛋白濃度はいずれも高い値を示し,中でも遊離脂肪酸と総蛋白濃度はその差が有意であった.これらの結果は夏季乾乳牛群が乾乳期において暑熱の影響を受けていたことを示す.一方,夏季乾乳牛群と秋季乾乳牛群間で泌乳期の平均気温,TDN摂取量に差異はなく,両牛群の泌乳期は適温環境であった.血中アルブミン濃度は夏季乾乳牛群で有意に低く,乳蛋白生産量も低い値を示した.乳汁中細胞数を反映する乳汁中DNA含量は夏季乾乳牛で有意に高かったにもかかわらず,1細胞あたりのプロラクチン受容体発現量は低い値を示した.以上の結果,夏季乾乳牛における乳腺細胞での乳生産プログラムの入口であるプロラクチン受容体発現量の低いことが夏季乾乳牛での乳蛋白生産量減少の引金の一つであることが判明した.
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