申請者らは、最近ウシ乳腺上皮細胞のクローン化に成功し、その細胞がどのような分泌特性を有するのか、鋭意検討中である。本研究の目的は、ウシ乳腺上皮細胞において(1)どのような刺激因子に反応するのかを、細胞内カルシウムイオン濃度変化から検討すること、および(2)GH遺伝子導入方法を開発し、オートクライン的(自己分泌完結的)に乳成分合成を促進できる機構の確立を検討すること、である。 平成13年度は、ウシ乳腺上皮細胞を用いた実験から、以下の結果が得られた。(1)ウシ乳腺上皮細胞は、ATPおよびGH刺激に対して、細胞内カルシウムイオン濃度や代謝(水素イオン輸送)が増大した。(2)ただし、GH刺激に対する反応は、催乳ホルモンで処理された細胞でのみ確認された。(3)逆に、催乳ホルモンで処理された細胞では、ATP刺激に対する反応は抑制された。(4)細胞のGH受容体mRNA発現は、催乳ホルモン処理で、増強された。(5)GH刺激に対する細胞内カルシウムイオン反応は、マウス線維芽細胞株でも確認された。(6)ATP刺激刺激に対する反応は、ヒト乳がん細胞株でも確認され、ウシ乳腺上皮細胞よりも大きいものであった。(7)培養液中からカルシウムイオンを除去した条件下でも、ATP刺激による細胞内カルシウムイオン濃度増加はほとんど変化しなかった。 ウシ乳腺上皮細胞に関する以上の実験結果から、以下のことが明らかにされた。(1)ATPおよびGHが急性の反応を誘発し、それぞれ細胞増殖や分化に関与する可能性がある(2)両刺激に対する反応性は、催乳ホルモン処理、すなわち泌乳によって変化する(3)ミルクの主要な成分であるカルシウムは、細胞内に蓄積されている割合が大きい。
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