本研究は、ラットにおいて嗅神経に沿った脳脊髄液の吸収路の存在について検討し、頚リンパ節が脳脊髄液の監視機構と働くかを明らかにしようとするものである。そこで昨年度はラット大槽(小脳延髄槽)からくも膜下腔に墨汁を注入し、嗅神経から鼻粘膜リンパ管を通って頚部のリンパ節に墨汁が流出することを確かめた。今年度は引き続き、以下の点を明らかにした。 1)光学顕微鏡による詳しい解析を更に進め、篩板の内部と周囲にリンパ管網が発達しており、ここから墨汁が回収されることを明らかにした。このリンパ管とくも膜下腔との連続性については、もっとも興味深い点であるが、現在検討中である。 2)墨汁が流入した鼻粘膜リンパ管の分布とその後の経路を実体顕微鏡で詳しく解析した結果、鼻腔前方のリンパ管は浅頚リンパ節に、鼻腔後方のリンパ管は咽頭壁を通って深頚リンパ節へ注ぐことが解明された。したがって、浅・深頚いずれのリンパ節もこの吸収路に関与していることが明らかになった。 以上から、少なくともラットでは脳脊髄液が鼻粘膜リンパ管網に流れ込み、浅・深頚それぞれのリンパ節に回収されることが明らかになった。脳脊髄液の監視装置としての頚部リンパ節の役割をより明瞭にするためには、このリンパ路における免疫系細胞(樹状細胞など)の分布の検討が重要である。現在この点を解析中であるが、その詳しい結果はまだ出ていない。この点は是非解析して、本経路の意義をさらに明らかにしたいと考えている。
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