研究概要 |
形質膜の機能ドメインであるカベオラとラフトはコレステロールやスフィンゴ脂質などの脂質成分を基盤として形成され, 脂肪酸でアンカーする細胞内シグナル伝達関連分子が集中的に存在する. また中性脂質を含む細胞内脂質滴の表層も膜ドメインとしての性質を持つことが明らかになった. 脂質は通常の試料作製に用いられる薬剤では固定されないため, 急速凍結法を用いて脂質性ドメインにおける機能分子の微細局在を明らかにする方法の確立を企図した. 今年度は精製した脂肪滴を用い, 液体ヘリウム温度ステージを持つ極低温電子顕微鏡での無固定・無染色での観察と, 凍結割断レプリカによる免疫電顕法を行い, 両者の結果を比較検討した. 前者の方法では HepG2 細胞から精製した脂肪滴の多くは, 表面が高電子密度の1本線として観察され, 燐脂質一重層であることが確認された. 一部の脂肪滴には同心円状に等間隔で配列する多重線が認められ, 複数種の脂肪滴の存在が示唆された. 凍結割断レプリカ法でも, 表層だけが割断されるものと, 何重もの割断面が見られるものが観察され, 極低温電子顕微鏡での観察結果を裏付けた. しかもレプリカ上で, 脂肪滴に特異的な蛋白質である ADRP を金コロイド抗体標識すると, ラベルは重層する複数の割断面に観察された. 通常のアルデヒド固定を行った試料では凍結切片, 樹脂包埋切片とも脂肪滴表層や内部に膜状構造を見ることはできない. 上記の結果は急速凍結法が脂肪滴の表層と内部の構造を保存し, 従来の方法で同定し得なかった微細構造を観察するために有効であることを示した.
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