研究概要 |
前年度の研究により,脂質滴は内部にコレステロールエステルとトリグリセリドを貯蔵し,外周は燐脂質とフリーコレステロールでできた一重層で覆われている構造であることを明らかにした.今年度は脂質滴の構造保持と脂質滴特異蛋白質の免疫電顕的検索について検討した. 1)光学顕微鏡レベルで脂質滴を検出するための方法として,中性脂質を特異的に標識するNile red, Sudan III, Oil red 0などによる染色が用いられている.従来の方法ではこれらの染色を二重に行うことができなかったが,我々はNile red染色・写真撮影・脱色・Sudan III(またはOil red 0染色)・写真撮影というシーケンスで観察し,同一細胞での二重染色を行った.その結果,Sudan III, Oil red 0の染色で使用するethanol, isopropanolなどの溶剤が脂質滴を変形・融合させ,Nile red染色とは異なる像をもたらすことを見出した.また封入剤に用いられるグリセロールも脂質滴を変形させることが明らかになった.これらの変形はグルタルアルデヒドで固定した試料でも認められた. 2)脂質滴に局在する分子であるADRPについて,急速凍結・フリーズフラクチャー法で得たレプリカを金コロイド標識した.アミノ末端を認識するモノクローナル抗体を用いたが,標識は脂質滴表層の凸割断面(PF),凹割断面(EF)のみならず,脂質滴の中心部分を横断する割断面にも観察された.この結果はADRPが従来の膜蛋白質とは異なり,多様な三次元構造をとり,時に中性脂質でできたコアの部分にも挿入される可能性を示唆した. 通常のアルデヒド固定で脂質滴構造を保持することは困難であり,凍結技法を用いることによってのみ,分子レベルの微細局在を明らかにすることが可能であると考えられる.
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