研究概要 |
報告者らは、これまでに糸球体上皮細胞が特定の培養条件により化生し、マクロファージ様の形質を獲得することを報告した。また、その細胞を抗原としてモノクローナル抗体の作成を試み、モデル腎炎での半月体構成細胞の一部に強く反応する2種類の抗体(mAbOS-3, mAbOS-6)を得た。 本研究の目的は半月体形成性糸球体腎炎の進展機序を糸球体上皮細胞の生理・機能の変化、すなわち形質の変化という側面より捉え、半月体形成に関わる機構をモノクローナル抗体を指標として分子レベルで解明するものである。 本年度は正常ラット糸球体よりmRNAを抽出し、モノクローナル抗体を用いて対応cDNAのクローニングを実施した。一方、抗Thy1モノクローナル抗体(mAb1-22-3)によるメサンギウム増殖性腎炎ラットモデルでmAbOS-3対応抗原の発現を免疫組織学的に検索した。 モノクローナル抗体対応遺伝子の検索に関しては、正常糸球体での対応抗原の発現が弱いこともあり、現時点でクローニングには至っていない。一方、mAb1-22-3惹起腎炎での解析では、mAbOS-3対応抗原が比較的早期の半月体で発現することが判明した。また、蛍光抗体二重染色法および免疫電顕によりmAbOS-3対応抗原を発現する細胞は抗基底膜抗体惹起腎炎同様に糸球体上皮細胞であることが示された。この結果により、半月体の形成には傷害部位にかかわらず、糸球体上皮細胞が大きく関与している可能性が示唆された。 今後、mAb対応抗原は糸球体以外の多くの腺組織にも発現することから、それらの臓器および半月体からのmRNAの抽出によりcDNAのクローニングを検討するとともに、in vivoとin vitroでのmAbOS-3対応抗原発現機構ついて比較解析することで、糸球体上皮細胞の半月体形成に果たす役割を明確にする予定である。
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