研究概要 |
1)遺伝子解析の進行状況:マラリア流行性の異なる6カ所のヴァヌアツ島嶼ヒト集団のTNFαプロモーター領域多型を対象とした.この領域を含むDNAをPCRで増幅した後,SSOP法,直接配列決定法を用いて個人のタイプを決定した.従来報告のある4ヶ所の点突然変異部位について解析したところ,多型の組み合わせから5つのタイプが見られることがわかった.高度浸淫群と低度浸淫群に分け各タイプの頻度の差を検定したところ,低度浸淫群でTNFP-Dタイプが有意に増加していた.TNFP-Dタイプは脳マラリアの感受性が高いというミャンマー集団での報告があり(Ubalee et al. 2001),「熱帯熱マラリア原虫陽性率の高い集団では,脳マラリア感受性遺伝子が淘汰される」という仮説を支持する結果となった.ただし,TNFαプロモーター領域多型の差が,高度浸淫群と低度浸淫群の人種差を反映している可能性があり,マラリアの淘汰圧と無関係な遺伝子マーカーの解析が必要である.そのため,mtDNA多型について,MEGABACE 1000によるDNAシークエンス法を用いた解析を進める予定である.2)マラリアに関する疫学データ解析の進行状況:パプア・ニューギニアではヴァヌアツにくらべマラリアによる死亡率が高いことが知られており,「マラリアによる死亡率の高い集団では,脳マラリア感受性遺伝子が淘汰される」という仮説の検証を行う.2001年に引き続きパプア・ニューギニア国,東セピック州のコミュニティで計7ヶ所,合計5000人についてマラリア疫学調査を施行し,海岸部,丘陵部,平原部の疫学データおよび血液標本を収集した.熱帯熱マラリア浸淫度は平原部が最も高く,海岸部,丘陵部の順であった.また,同地区の2ヶ所の医療施設で熱帯熱患者を対象とした標本収集を開始した.これらの遺伝子解析もヴァヌアツ集団と平行して行っていく予定である.
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