研究概要 |
申請者らが開発したリバースジェネティクス法を用いて、安全性の高い不活化ワクチンと、侵入門戸の感染防御に有効な弱毒化生ワクチン双方の長所を兼ね備えたワクチン、すなわち細胞に一度だけ感染してウイルス蛋白質を発現し、粘膜免疫および細胞性免疫は誘導するが新たな感染性粒子は産生しない、"半生"ワクチンの開発を試みた。 本研究では、インフルエンザウイルスの8本のRNA分節のうち、NS遺伝子に着目した。NS遺伝子がコードするNS2蛋白質を発現しないように変異を導入し、これを用いてNS2欠損ウイルスを作製した。 NS2欠損ウイルスを培養細胞に感染させると、主要ウイルス抗原蛋白質であるNP, HA, NA, M1の発現は確認されたが、新たな感染性ウイルス粒子の産生は認められなかった。このウイルスをワクチンとして、3週間おきに3回マウスに経鼻接種して、血中と鼻腔および肺洗浄液中の抗体価を調べたところ、血中からはIgG抗体が、肺洗浄液中からはIgA抗体が検出された。続いて最終免疫から1ヶ月後あるいは3ヶ月後に、致死量の100倍のウイルスでマウスを攻撃した。最終免疫から1ヵ月後に攻撃した場合、対照群のマウスは全て死亡したのに対し、半生ワクチン接種マウスは全て生残した。さらに、最終免疫から3ヵ月後に攻撃した場合でも、半生ワクチン接種マウスは9匹中8匹が生残した。以上の結果は、増殖能を欠く"半生"ワクチンは、弱毒生ワクチンで危慎されるような病原性復帰の可能性はなく、安全面でも優れたワクチン侯補になることを示している。
|