Tリンパ球の分化途上において、TCR遺伝子の再構成に失敗し抗原受容体を発現できない細胞クローンがどのように排除されるのか明らかにすべく、TCRα鎖V遺伝子断片とJ遺伝子断片のあいだでおこる再構成エクソン間結合部位の構造をImmunoscope法により解析した。その結果、正常マウスのCD4+CD8+胸腺細胞では成熟Tリンパ球と同様に、TCRα鎖mRNAのコドンフレーム適合性が確立していたが、TCR-Cα遺伝子欠失マウスの幼若CD4+CD8+胸腺細胞のTCRα鎖mRNAはV-J間コドンフレーム適合性が全く確立されていなかった。これらの結果から、幼若Tリンパ球には、全長のα産物を合成できコドンフレームの適合したmRNAが優先的に蓄積される能動的過程が存在することが示された。この時、TCR-Cα欠損マウス同様「正と負の選択」を欠損した、TCRリガンドMHC欠損マウスやTCR信号伝達分子ZAP-70欠損マウスのCD4+CD8+胸腺細胞、更にはTCRα鎖と会合してTCR分子を構成するTCRβ欠損マウスのCD4+CD8+胸腺細胞では、TCR-Cα遺伝子欠失マウスと同様CD4+CD8+胸腺細胞期で分化が停止しているのにも関わらず、正常マウスのCD4+CD8+胸腺細胞と同じく完全なTCRα遺伝子再構成におけるコドンフレーム適合性の確立が見られた。これらの結果から、TCRα遺伝子再構成におけるコドンフレーム適合性確立は、TCR信号に従った「正と負の選択」の不在下で正常に見られ、α産物の合成を要するのにかかわらずβ産物は全く不要であることが明らかになった。すなわち、(1)既知の「正と負の選択」とは独立した、TCRα発現の成功・不成功に基づいてTCR発現失敗クローンを排除する分化制御機構が存在し、(2)この制御はTCRβ鎖との会合に依存しないα産物センサー機能によって担われていることが示唆された。
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