実験材料として、当教室で作成した生得的に高学習能を有するTHA(Tokai High Avoider)ラットとWistarラットを6匹ずつ用いた。12週目のTHAラット(オス)と、同令のWistarラット(オス)3匹ずつについてSidman型電撃回避学習試験をおこなった。学習試験はレバー押し反応と電撃刺激の間隔30秒、電撃刺激間の間隔を5秒とする回避学習スケジュールを用いた。電撃刺激は、DC100V、3mAを0.5秒間通電した。この学習試験を1試行60分間、1日1回、連続3日間行った。後半30分間における3日目の回避率の平均値は、THA 95.0±3.8%、Wistar 65.6±15.9%であり、THAラットの学習能力がWistarラットに比べ有意に優れていた。回避率(%)={(レバー押しが全くない場合の被刺激数-実際の被刺激数)/(レバー押しが全くない場合の被刺激数)}×100。3日間学習試験を行った翌日解剖を行い、海馬よりRNAを抽出した。学習能力に関係することが報告されているN-methyl-D-glutamate(NMDA)受容体の遺伝子発現に関しては、NMDA2A、NMDA2Bとも両ラット間で差はみられなかった(RT-PCRによる解析)。CLONTECH社のAtlas Systemを用いたマイクロアレイ解析では、解析したラットの1101種の遺伝子中13種の遺伝子発現に2倍以上の差がみられた。これらの中には細胞の増殖に関する遺伝子がいくつかみられ、s-myc、TGF-beta receptor II、FGF2遺伝子はTHAラットにおいて2倍以上発現が低下していた。現在これらの遺伝子発現についてNorthern blot hybridization、RT-PCRにて解析中である。
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